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鴨居玲の展示にある「紋章入りのスペイン椅子」は、なぜ誰も語らないのか

鴨居玲の展示にある「紋章入りのスペイン椅子」は、なぜ誰も語らないのか

 2026.01.07 12:28

鴨居玲の展示空間に置かれた「紋章入りのスペイン椅子」。写真撮影可・解説なしにもかかわらず、なぜ誰も語らないのか。公開資料・美術館情報を検証し、その沈黙の理由を読み解く。

正月の笠間稲荷神社周辺の風景。初詣の参拝者と賑わう参道。

今年のお正月、私は笠間稲荷神社に初詣をしてきました。
三が日は少し過ぎていましたが、人出はまだ多く、お店も立ち並び、ほどよく賑わっていて、正月らしい空気を味わうことができました。

せっかく笠間まで来たのだから、モンブランを食べ比べしてこよう。
そんな、いわば「食」を目的にした小さな旅でした。

笠間名物のモンブラン。正月に訪れた笠間で味わった菓子。

美味しいものでお腹を満たしたあと、神社前のお稲荷屋さんでお稲荷さんを注文すると、

「少しお時間がかかりますが、どちらか行かれますか?」
と声をかけられました。

特段、何の前知識もありません。
「お腹も満たしたことだし、目も潤そう」
そんな軽い気持ちで、途中のアンティークショップを覗きながら、美術館まで歩いて向かいました。

展示室に入って、最初に感じた違和感

1階の展示室に入ると、「鴨居玲」と書かれていましたが、私はその画家について、何も知りませんでした。

とりあえず見てみよう、と一歩足を踏み入れると、
絵だけでなく、家具がいくつも置かれていることに気づきました。
椅子、テーブル、長椅子のようなものもあります。

私の自宅にもアンティーク家具はあります。
けれど、そこに並んでいたものは、いわゆる「家具」というよりも、
どこか教会や修道院を思わせる佇まいでした。

削りが粗い。

装飾というより、機能を優先した形。
長椅子は、明らかに人が並んで座るための長さをしています。

笠間日動美術館「鴨居玲の部屋」の展示空間。椅子やテーブルなどの家具が配置されている。

展示を構成するための什器なのだろうか。
それとも、作品世界を補うための演出なのだろうか。

美術館の展示で家具が置かれていること自体は、珍しくありません。
だから最初は、深く考えませんでした。

それでも、少しだけ、ひっかかる感じがありました。

絵より先に、椅子の前で立ち止まった

そうして進んでいくうちに、私は絵の前に立ち止まるよりも先に、
ある一脚の椅子の前で足を止めていました。

背面に紋章を刻んだスペイン椅子。鴨居玲の制作部屋を再現した展示空間に置かれている。

その椅子の背には、紋章が彫られていました。

それは装飾として眺めるものではなく、紋章皿などを見慣れている私には、一目で「紋章」だと分かるものでした。

にもかかわらず、その椅子について語る言葉は、どこにも見当たりませんでした。

キャプションはない。
説明文もない。
展示リストを見ても、詳しい記載はありません。

なぜ、ここに紋章入りの椅子があるのか。
なぜ、それについての説明が一切ないのか。

私はその場で椅子を観察し、写真を撮り、「あとで調べるための情報」を持ち帰ることにしました。

展示室を出てからも、美術館を後にしてからも、あの椅子のことが頭から離れませんでした。

展示資料を確認して、まず驚いたこと

展示室で感じた違和感が、単なる思い込みではないかを確かめるため、公開されている展示資料を確認することにしました。

対象としたのは、笠間日動美術館の公式サイトに掲載されている展示資料、および展覧会に関する公開情報です。

展示リストに書かれていること/書かれていないこと

企画展示館1F「鴨居玲の部屋」に関する出品リストPDFには、絵画作品と並んで、展示空間に配置された家具類が列挙されています。

椅子に関する記載は、次のような形式でした。

椅子

2脚

41×37.5×119

椅子(ペーパーコード)

1脚

椅子(背にタイル絵)

2脚

94.0×47.3×41.0

椅子(背に花の浮彫)

2脚

スペイン椅子

117.0×46.0×36.0

スペイン椅子

113.0×45.5×36.0

チャーチベンチ

93.0×300.0×40

いずれも点数や簡単な特徴を示すのみで、

  • 背面に刻まれた紋章

  • その意味や由来

  • 制度的・歴史的背景

についての言及は確認できませんでした。


「スペイン椅子」という表記の曖昧さ

他の椅子が素材や装飾について触れられているのに対し、「スペイン椅子」という表記は、国名のみで構成されています。

制作年代や用途、公的な場で使われたものかどうかといった情報は示されていません。

また、「スペイン椅子」という記載と、背面に刻まれた紋章との関係についても、資料上で説明はなされていませんでした。

本当に誰も語っていないのか?公開資料の検証

この扱いが笠間日動美術館固有のものなのか、それとも展覧会全体に共通するものなのかを確認するため、各館の公開情報や二次資料についても調べました。

笠間日動美術館の展示PDF

笠間日動美術館の公式サイトには、企画展示館1F「鴨居玲の部屋」に関する出品リストPDFが公開されている。

このPDFは、展示作品および展示空間に配置された物品を一覧化した資料であり、絵画作品と並んで、椅子を含む家具類が記載されている。

しかし、この資料内において、

  • 椅子の背面に刻まれた紋章

  • 紋章の意味や由来

  • 制度的・歴史的背景

について言及した記述は確認できない。

また、「スペイン椅子」という表記は存在するものの、その内容を補足・解説する文章は含まれていない。


各館における公開展示情報

「没後40年 鴨居玲展 ― 見えないものを描く」は、複数の美術館で開催されています。

各館の公式サイトでは、展覧会の趣旨や作品傾向は紹介されていますが、展示空間に置かれた家具や椅子、とくに紋章入りの椅子についての解説は確認できませんでした。


二次資料(論文・レビュー・ブログ)

論文、美術批評、レビュー、個人ブログなども調査しましたが、展示空間の雰囲気に触れる記述はあっても、

  • 紋章入りの椅子そのもの

  • その意味や背景

を主題として論じたものは確認できませんでした。

なぜこの椅子は、語られずに置かれているのか

写真OKなのに撮られない理由

展示室では写真撮影が許可されていました。
実際、絵画作品の写真は多く共有されています。

それにもかかわらず、あの「紋章入りのスペイン椅子」の写真は、ほとんど見当たりません。

正面から撮られ、紋章が確認できる写真は、公開されている範囲では確認できませんでした。

理由は分かりません。

けれど結果として言えるのは、その椅子が「見えているのに、写されていない」という事実でした。

私はそのことが、
椅子そのものよりも、少し気になってしまいました。


説明しないという展示判断

この椅子は、展示空間に置かれ、来館者の目に触れています。

けれど説明は与えられていません。

展示において「説明がない」という状態は、単なる欠落ではなく、ひとつの判断でもあります。

説明することもできたはずなのに、あえて語られていない。

その結果、この椅子は、意味を問われることなく通り過ぎられ、記録にも残りにくい位置に置かれているように見えます。

現時点での整理

確認できたことは、次の点です。

  • 紋章入りの椅子は、確かに展示されている

  • しかし展示資料・公開情報・二次資料のいずれにも説明はない

  • 写真撮影が可能であるにもかかわらず、ほとんど撮られていない

この椅子は、

存在しているのに、語られていない

その状態が、意図せず生まれたものなのか、展示の判断として選ばれたものなのか。

少なくとも、それを考えたくなるだけの違和感が、この展示空間にはありました。


── 関連記事 ──


※ 本記事は、展示空間に置かれた紋章椅子が
なぜ語られていないのかを確認するための記録です。
制度的背景や空間構造については、上記の記事で扱っています。


紋章や器にまつわる記録は、
小さな資料室にまとめています。
ARIRIA Heritage Collection

Akane

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アーモリアル陶磁器と紋章文化を、個人研究として記録・考察しています。 いつか、おばあちゃんになったら、静かなミニ紋章ミュージアムを開くのが夢です。

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